2017年5月14日日曜日

北朝鮮が核で挑発する本当の理由

May 13, 2017



さっきもまた、「北朝鮮、ミサイル発射」の速報が流れた。トランプでさえ「対話」を口走るなか、「対話」をうたって選挙戦を戦った韓国の新大統領誕生をいやいや感どっぷりで迎えた安倍政権。あいかわらず自己中の論議をふりかざすアメリカの言い分を隠れみのに、自国民や地域の生命の安全を二の次に「外交より武装」路線を突っ走っている。「ネイション」誌に2017年3月に載ったシカゴ大学教授で朝鮮近現代史の研究の第一人者であるブルース・カミングスの貴重な論考(This Is What's Really Behind North Korea's Nuclear Provocations)をざざっと訳してみました。「北朝鮮は、もうむちゃくちゃ。問答無用」と決めつけるアメリカの政治家やジャーナリズムの大勢に棹さし、歴史から学べと忠告しています。また、カミングス教授とカリフォルニア大学の准教授クリスティン・ホンがゲスト出演したデモクラシー・ナウ!でのインタビューの日本語訳が、月刊誌『世界』の2017年6月号に掲載(『トランプは北朝鮮への威嚇や軍事拡大をやめ、沈静化を図れ』)されているようです。合わせて、どうぞ。(翻訳・文責=大竹秀子)




2月11日、ピョンヤンからのメッセージが届いたとき、ドナルド・トランプは、マー・ア・ラーゴで、日本の安倍晋三首相とディナーを共にしていた。北朝鮮が、固型燃料による新型の中距離弾道ミサイルを移動型—つまりは検知が困難な—発射台から発射したのだ。トランプ大統領は、1990年代のフリップ式携帯電話を取り出し、話の中身が聞こえる距離にいろいろな人たちがすわっていたのだが、その面前でこの出来事について話し合いを行った。ディナー中だったリチャード・デアガシオは、重大なシーンが展開し始めたことに興奮し、自分のフェースブックのページにこんなコメントを載せた。「なんかもう、すごい!!北朝鮮が日本の方角にミサイルを発射したというニュースが届いた。ディナーの席上で続々と動きが起きる。見ていてわくわくした」。

 比ゆ的な言い方をするなら、実はこのミサイルは、マー・ア・ラーゴ直撃をねらっていた。だが、アメリカのメディアは、発射がもつ確固とした歴史的ふくみを捉えることができなかった。 トランプが「シンゾー首相」と呼ぶ安倍は、日本の元首相、岸信介の孫だ。安倍が敬愛する岸は、第2次大戦後、アメリカ占領軍により「A級」戦犯とされた人物だ。1930年代、東条英機が満州で憲兵隊司令官だった時、岸は現地で軍需品製造を統括していた。キム・ジョンウン(金正恩)が同じく敬愛する祖父のキム・イルソン(金日成)は、同じころ、同じ場所で日本と戦っていたのだ。

 本誌2016年1月号にも書いたことだが、北朝鮮の人々は、彼らの、歴史をふまえた挑発の意味をアメリカの指導者たちがまったく理解しないことに気づき、驚愕しているに違いない。さらに癪の種なのは、米政権が北朝鮮との72年間にわたる紛争の歴史を頑として調べてみようとしないことだ。アメリカのメディアはすべからく「永遠のいま」を生きているらしい。新たな危機が起こると、そのつど、真新しい危機として扱うのだ。3月にソウルを訪問したレックス・ティラーソン国務長官は、北朝鮮には、合意を次から次に破ってきた歴史があると主張した。実際には、ビル・クリントン大統領が、1994年から2002年まで8年間、プルトニウムの生産を凍結させた。さらに、2000年10月には、すべての中距離および長距離ミサイルを買い上げるという交渉が、仲介者を介してまとまりかけていた。クリントンはまた、チョ・ミョンロク(趙 明禄)との間で、両国は今後互いに「敵対的な意図」を抱かないとする合意に署名していた。

ブッシュ政権は、即座にこれらの合意を無視し、1994年の凍結の破棄に乗り出した。 ブッシュのイラク侵攻が世界史に残る破局とみなされるのは当然だが、これに次いでひどいのは、ブッシュが北朝鮮を「悪の枢軸」とし、2002年9月にイラクと北朝鮮に向けた「先制攻撃」論を発表したことだ。クリントンの合意が持続されていたら、北朝鮮が核兵器をもつことはなかっただろうことは、純然たる事実なのだ。

 さて、今回、数ヶ月前にワシントンに乗り込んだドナルド・トランプ。首都ワシントンでは「北朝鮮の核プログラムを制御しようとするこれまでの試みはすべて失敗に終わった」という誤った前提に基づき、「であるから、いまや力を行使し、ミサイルを破壊するか政権を転覆させる時ではないか」という超党派のコンセンサスが出来あがっている。2016年9月、超党派の外交問題評議会(Council on Foreign Relations)が出した報告書は、「より積極的な軍事的および政治的行動」を考慮すべきであるとし、「この中には[北朝鮮]レジームの存在を直接的に脅かす行動も含まれる」と論じている。ティラーソンは最近の東アジア歴訪で、先制攻撃の可能性について警告を発した。また、オバマ前政権で要職にあったアンソニー・ブリンケンは、ニューヨーク・タイムズ紙で、「政権交代」のあかつきには、中国および韓国と力を合わせて行動し、北の核貯蔵庫を安全確保することがトランプ政権の最優先事項だと論じた。しかし、北朝鮮には国家安全保障関連の地下施設が1万5000カ所あると言われている。米海兵隊がそのような「捜索&安全確保」作戦を行い、国じゅうをくまなく探しまわるなど、想像するのさえばかげている。だが、ブッシュ、オバマ両政権は、まさにそれを実行するという計画を立てた。オバマはまた、何年間も、北朝鮮に対して極秘のサイバー戦争を仕掛け、北のミサイル・プログラムの感染と妨害をはかった。北朝鮮がアメリカに対してそんなことをしたら、戦争行為とみなされることだろう。

2016年11月8日、ヒラリー・クリントンに票を投じた6600万人の有権者は、ヘーゲルが論じた「歴史 の狡知」という教訓を得ることになった。もし北朝鮮を攻撃するなら、ドナルド・トランプには、より大きな教訓が待ち受けているだろう。北朝鮮は世界で第4位の規模の軍をもち、高度な訓練を受けた特殊部隊隊員が20万人、ソウルの北側の山脈に1万発の砲弾、地域内のすべての米軍基地(数百ある)を被弾させうる移動ミサイル、広島に投下された原爆より2倍以上強力な核兵器(ニューヨーク・タイムズ紙のデイビッド・サンガーとウィリアム・ボードによるきわめて詳細な調査に基づく新たな推定による)を備えている。

 2016年10月、ソウルでのあるフォーラムで、私はビル・クリントン政権で米国国務副長官だったストローブ・タルボットと同席した。ほかの全員と同様、タルボットは、次期大統領にとって安全保障上の最大の問題はおそらく北朝鮮だと断言した。私は自分の発言の中で、ロバート・マクナマラについて言及した。エロール・モリスの傑出したドキュメンタリー映画The Fog of War,(『戦争の霧 』)の中でマクナマラはベトナムでの敗戦についてこう説明していた―「われわれは敵の視点に立って我々自身をみてみようとしなかったし、彼らの視点で世界を見てみようともしなかった」。タルボットは、続けてこう口にした、「グロテスクな体制なんです!」。 それ来た!「北朝鮮は我々にとって最大の問題だ。が、しかし、あまりにもグロテスクだから北朝鮮政権の視点を理解しようという試みには何の意味もない(あるいは、まともに相手にしても仕方ない)」という。

韓国に数百の核兵器が配備された1950年代にさかのぼり、北朝鮮は、アメリカの核兵器による体系的な恐喝を受けてきた世界で唯一の国だ。私はこのことについて本誌およびBulletin of the Atomic Scientistsに書いてきた。北朝鮮政府が核の抑止力を求めることに何の不思議があるというのか?だが、きわめて重要なこの背景がアメリカで主流 をなす論議に組み込まれることはない。歴史は重要とはされないのだ—それが鎌首をもたげてあなたの顔を直撃するまでは。
(翻訳・文責:大竹秀子)









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